ドラッグストアで販売される薬の中でも、売り上げの多くを占めるのが腸の薬です。
試験で頻出している内容のひとつで、実務でもよく使うような項目になります。
いずれも、引っ掛け・注意事項が多いので、しっかり要点を押さえていきましょう!
Contents
腸の不調、薬が症状を抑える仕組み
腸における消化、栄養成分や水分の吸収が正常に行われなかったり、腸管がその内容物を送り出す運動に異常が生じると、便秘や軟便、下痢といった症状が現れます。
腸の働きは自律神経系により制御されており、異常を生じる要因は腸自体やその内容物によるものだけではありません。
- 急性の下痢:体の冷え、消化不良、細菌やウイルス等の消化器感染(食中毒など)、緊張等の精神的なストレス
- 慢性の下痢:腸自体に病変を生じている可能性がある
市販薬で対応できるのは急性の下痢症状のみで、長く下痢が続いている場合は医療機関への受診を勧めるようにします。
- 一過性の便秘:環境変化等のストレス、医薬品の副作用など
- 慢性の便秘:加齢や病気による腸の働きの低下、便意を繰り返し我慢し続けることなどによる腸管の感受性の低下など
整腸薬の目的
整腸薬は、腸の調子や便通を整える(整腸)、腹部膨満感、軟便、便秘に使用する医薬品です。
その配合成分としては、腸内細菌の数やバランスに影響を与えたり、腸の活動を促す成分が使われます。
止瀉薬(下痢止め)の目的
止瀉薬は、下痢、食あたり、吐き下し、水あたり、下り腹、軟便などに使われる医薬品です。
その配合成分としては、腸やその機能に直接働きかけるものや、腸管内の環境を整えて腸に対する悪影響を減らすことによる効果を期待するものがあります。
瀉下薬(下剤)の目的
瀉下薬は、便秘症状、食欲不振、腹部膨満、腸内異常発酵、痔の症状の緩和、腸内容物の排除に用いられることを目的とする医薬品です。
配合成分は、腸管を直接刺激するもの、腸内細菌の働きによって生成した物質が腸管を刺激するもの、糞便のかさや水分量を増すものなどがあります。
腸の薬に含まれる代表的な配合成分
整腸薬、止瀉薬、瀉下薬それぞれに使われる代表的な配合成分について解説していきます!
使用成分によっては、副作用や使用に対して注意を促すものもあるため、出来るだけ暗記して点を落とさないようにしましょう。
整腸成分
腸内細菌のバランスを整えることを目的として、以下の成分が使用されることがあります。
生菌成分の製剤は長期間内服することを前提に作られているものも多く、効果が現れるまでに時間がかかるものが多いです。
- ビフィズス菌
- アシドフィルス菌
- ラクトミン
- 乳酸菌
- 酪酸菌等
- ケツメイシ
- ゲンノショウコ
- アセンヤク
- 胃や腸などの消化管の平滑筋に直接作用し、消化管の運動を調整する
- まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがある
止瀉成分(下痢止め)
止瀉薬は、収斂(しゅうれん)成分、ロペラミド塩酸塩、腸内殺菌成分、吸着成分の4つに分けられます。
- 収斂成分
- 次没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス
- タンニン酸アルブミン
- ゴバイシ(生薬)
- オウバク(生薬)
- オウレン(生薬)
- 収斂成分を主体とする止瀉薬は、細菌性の下痢や食中毒で使用すると症状を悪化させるおそれがある
- 次没食子酸ビスマス・次硝酸ビスマスは、精神神経症状が現れる可能性があるため、1週間以上継続して使用しない
- ビスマスは血液-胎盤関門を通過するため、妊婦又は妊娠していると思われる女性では使用を避ける
- タンニン酸アルブミンについては、まれに重篤な副作用としてショック(アナフィラキシー)を生じることがある
- タンニン酸アルブミンに含まれるアルブミンは、牛乳を精製した成分のため牛乳アレルギーの人は使用を避ける
- ロペラミド塩酸塩
- 一般用医薬品では、15歳未満の小児には使用不可
- 便秘の副作用があるため、胃腸鎮痛鎮痙薬との併用は避ける
- 重篤な副作用としてイレウス様症状・ショック(アナフィラキシー)、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症を生じることもある
- 副作用としてめまいや眠気が現れることがあるため、乗物・機械類の運転操作を避ける
- 吸収された成分の一部が乳汁中に移行するため使用中の授乳は避ける
- 腸内殺菌成分
- ベルベリン塩化物
- タンニン酸ベルベリン
- アクリノール
- 木クレオソート
- 吸着成分
- 炭酸カルシウム
- 沈降炭酸カルシウム
- 乳酸カルシウム
- リン酸水素カルシウム
- 天然ケイ酸アルミニウム
- ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム
腸粘膜のタンパク質と結合して不溶性の膜を形成し、腸粘膜をひきしめることにより、腸粘膜を保護することを目的として使用されます。
ビスマスを含む成分は収斂作用の他に、腸内で発生した有毒物質を分解する作用も持つとされています。
オウバク、オウレンは、収斂作用のほか、抗菌作用、抗炎症作用も期待して用いられることが多いです。
ロペラミド塩酸塩が配合された止瀉薬は、食べすぎ・飲みすぎ、寝冷えによる下痢の症状に使用されます。
腸内殺菌成分は細菌感染による下痢の症状を鎮めることを目的として使用されます。
通常の腸管内に生息する腸内細菌に対しても抗菌作用を示しますが、ブドウ球菌や大腸菌などに対する抗菌作用の方が優位です。
下痢状態では腸内細菌のバランスが乱れている場合が多いため、結果的に腸内細菌のバランスを正常に近づけることに繋がると考えられています。
腸管内の異常発酵等によって生じた有害な物質を吸着させることを目的として使用されます。
アルミニウムを含む成分(〜酸アルミニウム)は、透析を受けている人に使うとアルミニウム脳症などの重篤な副作用が現れることがあります。
瀉下成分
腸管を刺激し、反射的な腸の運動を引き起こすことによる瀉下作用を目的として配合される成分です。
刺激性瀉下成分が配合された瀉下薬については、大量に使用することは避けることとされている。
- 小腸刺激性瀉下成分
- 妊婦又は妊娠していると思われる女性・3歳未満の乳幼児は使用しない
- 脂溶性の物質(防虫剤など)による中毒の使用は状態悪化のおそれがある
- 吸収された成分の一部が乳汁中に移行するため使用中の授乳は避ける
- 大腸刺激性瀉下成分
- 無機塩類
- マグネシウムを含む成分では腎臓病の診断を受けた人は高マグネシウム血症のおそれがある
- 硫酸ナトリウムを含む成分では血液中の電解質のバランスが損なわれ、心臓の負担が増加し、心臓病を悪化させるおそれがある
- 膨潤性瀉下成分
- マルツエキス
ヒマシ油は、ヒマシを圧搾して得られた油を用いた生薬で、小腸でリパーゼの働きによって生じる分解物が、小腸を刺激することで瀉下作用もたらすとされています。
大腸を刺激して排便を促すことを目的として、センナ、センノシド(センナの抽出物)、ダイオウ、カサントラノール、ビサコジル、ピコスルファートナトリウムが使われます。
センナ、センノシド、ダイオウ、カサントラノールについては、吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが知られています。
センナ中に存在するセンノシドは、胃や小腸で消化されませんが、大腸に生息する腸内細菌によって分解され、分解生成物が大腸を刺激して瀉下作用をもたらします。
ダイオウは各種の漢方処方の構成生薬としても重要ですが、瀉下を目的としない場合には瀉下作用は副作用となるため注意が必要です。
ビサコジルは大腸のうち、特に結腸や直腸の粘膜を刺激して排便を促す作用と、結腸での水分の吸収を抑えて、糞便のかさを増大させる働きがあります。
腸溶性製剤の場合、胃内でビサコジルが溶け出すおそれがあるため、服用前後1時間以内は制酸成分を含む胃腸薬の服用や牛乳の摂取を避けましょう。
ピコスルファートナトリウムは、胃や小腸では分解されませんが、大腸に生息する腸内細菌によって分解されて、大腸への刺激作用を示すようになります。
腸内容物の浸透圧を高めることで糞便中の水分量を増し、大腸を刺激して排便を促すことが目的です。
酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウムを含む成分と硫酸ナトリウムが配合されている場合があります。
腸管内で水分を吸収して腸内容物に浸透し、糞便のかさを増やすとともに糞便を柔らかくすることによる瀉下作用を目的として使われます。
作用は無機塩類とよく似ていますが、こちらに刺激する作用はほぼありません。
カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、生薬成分としてはプランタゴ、オバタの種子または種皮が配合されています。
膨潤性瀉下成分が配合された瀉下薬については、その効果を高めるため、使用と併せて十分な水分摂取がなされることが重要です。
ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)は、腸内容物に水分が浸透しやすくする作用があり、糞便中の水分量を増して柔らかくすることによる瀉下作用を期待して用いられます。
主成分である麦芽糖が腸内細菌によって分解して生じるガスによって便通を促すとされ、瀉下薬としては比較的作用が穏やかなため、主に乳幼児の便秘に用いられます。
マルツエキスは麦芽糖を60%以上含んでおり水飴あめ状で甘く、乳幼児の発育不良時の栄養補給にも使用可能です。
腸の薬として使用される漢方処方製剤
腸の不調を改善する目的で使われる漢方処方製剤は、桂枝加芍薬湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、麻子仁丸などがあります。
- 桂枝加芍薬湯
- 大黄甘草湯
- 黄牡丹皮湯
- 麻子仁丸
体力中等度以下で腹部膨満感のある人のしぶり腹、腹痛、下痢、便秘に適す
体力に関わらず広く応用され、便秘、便秘に伴う頭重、のぼせ、湿疹しん・皮膚炎、ふきでもの、食欲不振、腹部膨満、腸内異常発酵、痔などの症状の緩和に適す
体の虚弱な人、胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすく不向き
体力中等度以上で、下腹部痛があって、便秘しがちなものの月経不順、月経困難、月経痛、便秘、痔疾に適す
体の虚弱な人、胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすく不向き
体力中等度以下で、ときに便が硬く塊状なものの便秘、のぼせ、皮膚炎、ふきでもの、食欲不振、腹部膨満、腸内異常醗酵、痔の緩和に適す
胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすく不向き
まとめ
わたしが受験した際には「木クレオソート」に関する出題があったなぁ…なんて思い出しながらこの記事を書いていました。
センナやセンノシドに関する問題は頻出しているので、正確に頭に入れておきたいところ。
実務ではセンナ・センノシドを含む製剤の他に、副作用の少ない酸化マグネシウム、乳幼児にも使えるマルツエキスの質問が多いので、しっかり答えられるようにしましょう。